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第二次トランプ政権:経済税制と日本企業への影響

第二次トランプ政権:経済税制と日本企業への影響

 

11月5日の米国大領領選挙はトランプ前大統領の勝利で決着した。アメリカ第一主義を掲げるトランプ氏は、選挙キャンペーン中、減税、規制緩和、移民抑制といった共和党の伝統的な政策実施を唱えてきた。アメリカ国内産業と雇用を守る観点から、製造業への回帰を促すほか、中国をけん制するために、輸入関税の引き上げも強調している。今回は、トランプ大統領の復帰が、アメリカ経済税制および日本企業についてどのような影響をもたらすのかについて検証する。

 

1.減税政策

 

トランプ氏の経済政策の中心は「減税」と言える。トランプ氏自身の看板政策であった2017年Tax Cuts and Jobs Act (TCJA)がちょうど2025年末に期限切れとなる。そのため第二次政権では、この規定を延長するとともにその内容を拡充することが十分予想される。個人富裕層と法人に有利となるような税率引き下げや控除項目の拡大などが含まれることになるだろう。

 

具体的には、個人所得税率を現在の7段階累進課税システム(10%~37%)から新たに2段階累進課税システム(15%および30%)へ変更することが唱えられている。投資全般に関わるキャピタルゲイン税率を最高20%から15%まで引き下げ、富裕層に対し追加的にかかるNet Investment Income Tax (NIIT)を廃止することも提唱されている。

 

トランプ氏は、ネバダ州のウェイトレスからヒントを得たというレストランチップの非課税化、さらには、社会保険給付収入、残業手当収入に至るまで、さまざまなタイプの所得の非課税化をキャンペーン中に打ち出している。自動車ローンの支払利息を控除可能、特定公務員(警察官、消防職員、現役と退役の軍関係者)への所得控除を検討するとも伝えられている。法人所得税率については、国内製造企業対象に21%から15%にまで引き下げることも提案している。

 

2.財政政策

 

こうした大胆なタックス・カットは当然ながら財源不足を加速させる。トランプ氏は、これまで減税政策を強調する一方、歳出削減にはあまり具体的に触れていなかった。そのためアメリカの深刻な財政赤字はさらに悪化する可能性が高く、将来を予測するエコノミストは、先10年間で$7~$4 Trillionの財政不均衡をもたらすと試算している。財源不足を米国債の発行増で補う形であればその支払利息の増加により、時間経過とともにインフレと金利を上昇させる可能性がある。

 

3.関税政策

 

トランプ氏は、この深刻な財源不足を補うとともに、米国内産業と雇用を保護する観点から、外国製品に対して一律10%~20%、中国からの輸入品に対しては最大60%の新たな関税を課す意向を示している。この措置は、仮に実施されれば、外国製品を輸入する業者や米国消費者のコスト高に大きな影響を与える可能性がある。特に中国との貿易摩擦を激化させる恐れがある。

 

4.インフレーション

 

エコノミストは、こうしたトランプ氏の提唱する経済政策が、物価上昇を再燃させる可能性があると警告している。なぜなら、関税は本質的には、米国の輸入商品コストを上昇させ、そのコスト高を米国の消費者に転嫁される「消費税」に他かならないからである。それに加えて、何百万人もの移民を国外追放するというトランプ氏の計画は、結果的にはブルーカラーの労働力者不足によって雇用主が賃金上昇に直面する可能性もある。こうしたマイナス影響を冷静に吟味しないまま進むと、米国でのインフレを再び押し上げる危険性もある。

 

5.日本企業への影響

 

アメリカ第一主義へ傾倒は、日本企業に二つ直接的な影響が懸念される。一つは関税による影響だ。日本も含めた全ての輸入品に10%~20%の一律関税をかけたら、米国への輸出品のコスト増を最終消費者に転嫁せざるを得ない。結果的には米国物価上昇を上げる要因になる。そのため本当に実施するかどうかは不明である。もう一つはビザ申請への影響である。第一次政権時にトランプ氏が発動したビザ発給制限措置により、多くの日系企業の駐在員派遣に支障が出たことは記憶に新しい。もしこうした制限措置が再び実施されれば、アメリカでの人材難は更に悪化する。とくに歴史的に低い失業率(4.1%)現状においては、賃金コストをさらに上昇させ、企業競争力を低下させてしまう副作用が生じる。したがってトランプ新政権はビザ制限についても慎重にならざるを得ない筈である。

 

6.まとめ

 

トランプ氏の第二次政権は2025年1月20日にワシントンDCで発足予定だ。その新たな経済政策は、2025年から影響が出始める。キャンペーン中に提案された政策がどれほど実現するかは不明である。米国の国内製造業を支援し、外国経済への依存を減らすことを目的としているが、これらを具体化する段階で、議会での反対や潜在的インフレーションにも直面する可能性がある。財源不足をどのように補うかが最大のチャレンジとなる。アメリカに進出する日系企業も直接影響を受ける可能性がある。そのため日系企業は、今後新たに誕生するトランプ第二次政権の動向に注視する必要があろう。

 

<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>

 

(参考)

Trump takes a scattershot approach to income-tax reform, The Washington Post, October 2024
How Project 2025 could impact your tax bracket and capital gains under a Second Trump term, CNBC, July 2024
Donald Trump Tax Plan Ideas: Details and Analysis, Tax Foundation, October 2024
Conservatives Lay Out Their Second Term Trump Tax Policy, Tax Policy Center, February 2024
Trump’s economic plan hinges on tax cuts, tariffs, immigration crackdown, Reuters, November 2024
Here’s what Trump 2.0 means for the economy, from tariffs to mass deportations, NPR, November 2024