Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年4月15日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
米国の法人税のしくみは実に複雑である。トップレベルの連邦法人税に加え、各州レベルや地方自治体における法人税が存在するからだ。全米50州(およびワシントンDC)あるなか各州ルールや税率、課税方法などはそれぞれ異なる。そのため州への法人税申告義務があるのかどうかを判断するためにも各州「ネクサス」をそれぞれ調べる必要がある。この点を怠ってしまうと、州からの法人追徴課税リスクを負ってしまうのだ。前号では売上税とエコノミック・ネクサスの関係性について述べた。今回は、州法人税とネクサスの関係切り口から概要を説明したい。
A. 法人所得税と総売上税
米国における州法人税は、大きく2つのタイプに分類される。一つは所得に対して課税される「法人所得税(Corporate Income Tax)」、もう一つは州内の売上高に対して課税される「総売上税(Gross Receipt Tax)」である。現時点では44州が「法人所得税」およびこれに類する計算方法を採用している。一方少数派ではあるが、テキサス州、オハイオ州、デラウェア州、ワシントン州などでは「総売上税」の計算方法を採っている。さらには、州法人税が全くない州、サウスダコタ州とワイオミング州も、存在すると忘れてはならない。そこで今回は、米国のほとんどの州が採用している法人所得税を中心に説明する。
B. 公法86-272とネクサス
1959年以前、州の法人所得税と売上税のネクサスの考え方は、ほぼ同じであった。米国企業が、州内での物理的な活動拠点もしくはそれに準ずるプレゼンスを持っていれば、その州への法人所得税および売上税の申告義務は、同時に発生するという見方であった。しかし、マルチ・ステートで営業を繰り広げる企業にとっては、各州への申告義務が重くのしかかってしまう。こうした民間企業からの苦言を受け、アメリカ連邦議会では、1959年に州ネクサスを制限する法律を策定したのである。これが有名なPublic Law(公法)86-272である。税法教科書では、必ず紹介されるといった法律事例だ。一言でいうと、州内で事業を行う企業活動が、唯一、商品販売を勧誘(solicit)する営業活動(例:営業マンが注文を受け取る)であれば、その州の法人所得税申告義務からは、免除される、というルールである。
例えば、アリゾナ州に顧客はいるが、実際の注文処理や出荷は、カリフォルニア州本社から行っている企業があるとする。その企業は、営業マンをアリゾナ州現地に派遣して注文を取るだけの活動だけ行っているのであれば、アリゾナ州はその企業に法人所得税を課税できない、営業マンは保護される、というのが公法 86-272の適用である。長年、この公法86-272は、こうした営業マンの活動を、各州の申告義務から守る金字塔として称えられてきた。
ただしこの公法自体、1959年に発動された古いルールである。有形の商品売買のみ対象としており、サービスや無形固定資産の売買も保護対象としていない。この点、2021年にMultistate Tax Commission(MTC)が、公法86-272のガイダンスを更新しており、そこでは、従来の公法86-272で触れることのなかったインターネットによるウェブ営業活動は、保護されない可能性があるとの解釈指針を出している。
C. 法人所得税ネクサス (State Corporate Income Tax Nexus)
州法人所得税の「ネクサス」のもともとの考え方としては、州内における十分な物理的な活動拠点やそれに関連する<つながり>を持つという意味であった。ところが前述の通り、公法86-272に対するMTCガイダンス発表や、2018年から始まった売上税のエコノミック・ネクサス概念の浸透により、近年の各州の動きとしては、物理的な活動拠点がなくてもビジネス上の活動があれば、法人所得税のネクサスを有するという新しい基準も導入しつつある。
1)物理的ネクサス
事務所や倉庫、従業員を雇用するなど物理的な存在が州内にあることを確認するネクサス基準である。州事業登録、ライセンス登録、法的プレゼンスなども含まれる。また顧客サポート、技術サポート、組立サポート、トレーニング機能、契約の締結機能、役員(Officer)や経営者(Manager)の存在などといった、細かい活動プレゼンスの有無も、各州のネクサス基準により変わってくる。例えば、企業所有のトラックが、州内の顧客に商品を配送するために通過した場合、物理的なネクサス基準に抵触する場合もあり得る。したがって、各州の具体的な基準内容を絶えずアップデートしなければならないのだ。
2)ビジネスネクサス
物理的ネクサスがなくとも州内でDoing Business(事業活動)を行っているかどうかを標準とするネクサス基準である。米国の各州における最近の傾向でもある。ビジネスネクサスの方が、実質的かつ金額判定が容易だからであろう。例えば、一定以上の売上、在庫や固定資産、給与水準である。
<ビジネスネクサス基準例(2024年)>
カリフォルニア州:売上73.5万ドル超、資産7.4万ドル超、給与7.4万ドル超のいずれか一つ
ニューヨーク州:売上128.3万ドル以上
ペンシルベニア州:売上50万ドル以上
マサチューセッツ州:売上50万ドル超
D. まとめ
米国の州法人所得税は、州ごとにネクサス基準が異なる。ネクサス基準は複雑でその基準を解析するとともに追徴課税リスクを測らなければならない。したがって日系企業は、アメリカにおける経済活動が広がるに従い、各州のネクサス基準に十分注意する必要がある。最新ガイドラインを確認することも大切だ。例えばネクサス(つながり)を意図せず発生させる企業行動(出張、リモートワーカー配置など)にも留意するべきである。ネクサス専門の税務コンサルタントとタグを組み、リアルタイムでリスクを分析、州法人税申告の是非を判断することが、アメリカで安全に企業活動する際に重要となろう。
<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>
<参考>
Tax Foundation, State Corporate Income Tax Rates and Brackes 2025, Jan 2025
The Tax Advisor, Consequences of the MTC’s new interpretation of P.L. 86-272, May 2023
The Tax Adviser, State income tax considerations for non-US corporations, May 2024
Tax Jar, Income tax nexus and sales tax nexus: Is there a difference?,September 2023
California FTB, Doing business in California, March 2025
Mass.gov, Corporate Nexus, April 2025
CCH State Tax SmartCharts, April 2025