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バイデン vsトランプ 第二ラウンドへの経済政策論争

米国大統領選挙を今年11月に控え、バイデン氏とトランプ氏によるテレビ討論会が今月下旬に催される。「もしトラ」や「もしバイ」の経済政策論争が過熱している。どちらの候補者が選出されるかは、今の時点では予想困難である。現職のバイデン政権が第二期目を迎えるのか、あるいはトランプ氏が再び大統領に返り咲くのか、それぞれのケースで想定される政策面での比較をしつつ、2025年以降の米国経済に与える政策面でのイメージを捉えることとする。

 

1.政策面(想定)での比較

 

 

バイデン政権は、二期目においては、看板政策であるインフレ削減法(Inflation Reduction Act: IRA)の更なる経済刺激策を目的として財源確保のため、富裕層や大企業への「応分の負担」を求めている。これに対してトランプ氏は、自身の政権下における2017年Tax Cuts and Jobs Act (TCJA)大型減税の実績を強調、自身が帰り咲けば、富裕層を含めた更なる、幅広い減税措置を行うと表明している。このように真向から反発しているように見えるが、細かいところを見ると、両候補ともアメリカ国民の大部分を占める中間所得層への税負担を回避しつつ、Child Tax Credit(一人当たり$1,000→$2,000増)など個人税優遇策の維持、また政策名は違うものの、企業優遇や経済刺激策など、ポピュラーな経済政策を掲げている。

 

2.米国経済への影響

 

もしトランプ政権が再び登場した場合の民主党から共和党への政策転換の影響を懸念する声もある。ここで米国の株価指標S&P 500 Indexの過去55年の推移を分析してみる。

 

 

S&P 500銘柄の指標を、それぞれの当時の大統領および政党ごとにカラーで識別、「赤」は共和党大統領、「青」は民主党大統領で示している。これを見ると分かるように共和党と民主党が交互に大統領政権が変わったとしても、全体的に株価の推移は右肩上がりになっている。注意する点としては、2002~2003年のブッシュJR大統領時に落ち込んだのは、9-11テロとイラク戦争時の経済悲観論が漂った時期、また2008~2009年のオバマ大統領時に大幅下落してのは、記憶に新しいリーマンショックによる連鎖的な金融不安による時期である。実際には政権交代による株価推移の影響を関連づけることは難しく、今に至っては、歴史的な株価の高水準を記録している。このように考えると、今年11月の選挙にどちらが勝利しても、米国経済の強みは続くだろうとも推測できる。ただし幾つかの不安要素も残る。

トランプ氏は、TCJA継続と更なる減税策を声高らかに掲げている。連邦法人税を一律21%に下げるなど思い切った行動を再び期待するトランプ支持者もいる。反面、歳入不足によるデメリットは確実に起こりつつる。超党派機関Congressional Budget Office試算によれば、TCJAの根幹政策をそのまま維持し続ければ、連邦財政赤字は今後10年間で約5兆ドル増加するとの予想を立てている。2024年において、すでに米国の政府債務残高のGDP比は世界7位の120.0%に達している(国際通貨基金IMF調査)。バイデン政権の二期目となっても、IRAによる財政支出拡大策が予想される。よって米国の財政状況が今後の気掛かりな点であると言える。

 

3.進出日系企業への影響

 

「もしトラ」の保護主義的な政策へ切り替えられる場合のインパクトを懸念する日系企業も少なくない。前回と同様Make America Great Again (MAGA)がアメリカ第一主義、他国との貿易や関係を重要視しないというスタンスを掲げているからだ。現実、トランプ氏は日本製鉄によるUSスチールの買収計画を非難、それに影響されたか、バイデン氏までも買収に否定的な考えを表明したのだ。ただし、前回の選挙においても、トランプ氏の極端な言動により世論はかく乱されたが、言葉だけで終わった公約も多い。どちらにしても、米国経済は更に拡大する方向性にあるように見えるが、アメリカの市場拡大を目指す日系企業にとっては、巧みな舵取りが求められていることは間違いない。

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(参考)

 

1. George Mateyo, GGI NA Conference “Has the Fed Fixed Inflation and Will Taylor Save Cardi Again?”, 5/31/2024
2. Tax Policy Center, “Key Elements of the US Tax System” 2020
3. Macrotrends “S&P 500 Index – 90 Year Historical Chart” 2024
4. ジェトロ「米大統領選「もしトラ」の先を踏まえた冷静な分析を」2024年4月
5. グローバルノート「世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」2024年4月
6. 日興アセットマネジメント「もしトランプ大統領になったら」2024年3月
7. ニッポン放送「もしトラ」リスク典型 バイデン大統領の「日鉄USスチール買収反対表明」2024年3月
8. Nikkei FT the World、米財政赤字は世界経済の「重大リスク」IMFが警告、2024年4月
9. 時事通信「トランプ減税」争点にバイデン氏、富裕層向け続けず、米大統領選2024年5月