Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年1月15日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
日本企業のIFRS移行が加速:IFRS vs US GAAP
日本企業の国際戦略は進化し続けている。日本企業におけるIFRS(国際財務報告基準)の適用がその証拠である。2024年11月末時点では、IFRSを適用済み、適用決定、または適用予定の東証上場企業は合計284社に達した。グローバルな競争力を強化するため、IFRSへの移行は避けられない流れである。一方、米国を中心に使用されるUS GAAP(米国一般会計原則)も国際的なビジネス環境で重要な位置を占めている。今回は両基準の主な違いを整理し、米国子会社を持つ日本企業が留意すべき相違点を押さえる。
1. IFRSとその採用背景
IFRSとは国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)が策定する会計基準である。米国、日本等においては、自国基準を保持しながら、自国基準とIFRSとの差異を縮小することによってIFRSと同様な会計基準を採用しようとする「コンバージェンス」が進められてきたが、近年IFRSを自国の基準として採用する「アドプション」を表明する国が急速に増加している。世界的に「アドプション」ないしは「フル・コンバージェンス」への方向転換が加速しているとも言える。
2. IFRSとUS GAAPの相違点
IFRSとUS GAAPは、多くの会計処理において類似点がある。例えば収益認識基準 (ASC606とIFRS 15) は同時期に導入されている。どちらも5ステップモデルを提供し、業種を問わず適用可能である。その一方でいくつかの重要な相違点が存在する。IFRSは原則主義に基づき、企業の判断に柔軟性を持たせている。一方、US GAAPは詳細な規則に従うルールベースのアプローチを採用している点が挙げられる。下記では、主要テーマについて比較する。
A. 在庫評価
・IFRS(IAS 2): LIFO法は認められておらず、主にFIFOや加重平均法が使用される。在庫は純実現可能価額で評価され、必要に応じて評価減が行われる。これにより、在庫の評価がより現実的な資産価値を反映することを目的としている。
・US GAAP(ASC 330): 在庫評価にはFIFO(先入先出法)、LIFO(後入先出法)、加重平均法が使用可能である。ただし、LIFOの使用は税務上の制約や国際的な報告基準との整合性の観点から制限がある。物価上昇時にはLIFOが節税効果をもたらす場合があるが、国際的な比較可能性に影響を与える可能性がある。
B. 固定資産の再評価
・IFRS(IAS 16): 固定資産は取得原価または再評価モデルのいずれかで測定できる。再評価モデルを選択した場合、公正価値での再評価が定期的に行われ、増加分はその他の包括利益として計上される。これにより、資産価値の変動を財務諸表に反映させる柔軟性が提供される。
・US GAAP(ASC 360): 固定資産は取得原価で計上され、再評価は基本的に認められていない。資産の価値が増加しても、財務諸表には反映されないため、保守的な会計処理となる。ただし、減損が発生した場合には、帳簿価額の引き下げが必要である。
C. リース会計
・IFRS(IAS 16): リースの分類は行わなわずUS GAAPでのファイナンスリースと同じ部類として扱われ、オペレーティングリースはない。借手は短期リースおよび低価値資産を除き、すべてのリースを使用権資産とリース負債として計上する。短期リースや低価値資産のリースには簡便的な処理が適用される場合がある。
・US GAAP(ASC 842): リースはファイナンスリースとオペレーティングリースに分類される。借手は両方のリースについて使用権資産とリース負債を計上するが、貸手の会計処理はリースの分類により異なる。短期リースや低価値資産のリースには簡便的な処理が適用される場合がある。
D. のれんの会計処理
・IFRS(IAS 36): のれんは償却せず、毎年または減損の兆候があるときに減損テストを行う。減損損失は回収可能価額に基づいて測定される。さらに、減損損失が後に回復した場合、一定の条件下で戻入が認められる。
・US GAAP(ASC 350): のれんは償却せず、少なくとも年に一度、減損テストを実施する必要がある。減損の兆候がある場合には、追加のテストが求められる。ただし、非上場企業は10年以下の年数による定額法での償却を行うことが認められている。
E. 開発費の資産計上
・IFRS(IAS 38): 研究費は費用処理されるが、開発費は特定の条件を満たす場合に資産計上が可能である。将来の経済的便益が見込まれる場合、開発費を無形資産として計上し、耐用年数にわたり償却する。これにより、企業の技術投資の成果を財務諸表に反映させることができる。
・US GAAP(ASC 730): 研究開発費は基本的に発生時に費用処理される。ただし、内部使用ソフトウェアの開発費用など、特定の条件下では資産計上が認められる場合がある。これにより、企業は技術革新に伴う費用を即時に損益計算書に反映させることが一般的である。
F. 減損損失の認識
・IFRS(IAS 36): 減損損失は、回収可能価額(使用価値と売却コスト控除後の公正価値のいずれか高い方)を基準に測定する。減損損失が不要となった場合、条件を満たせば戻入が可能である。この柔軟性により、財務諸表が現実の状況をより正確に反映する。
・US GAAP(ASC 360): 減損損失は、資産の帳簿価額が使用価値または公正価値を超えた場合に認識される。一度計上された減損損失は原則として取り消しが認められない。これにより、資産の過大評価を防ぐが、回復可能な状況で柔軟性が欠ける場合がある。
3. まとめ
IFRSとUS GAAPには、資産評価、リース会計などの分野で重要な違いがある。日本企業がIFRSへの移行を進める中、US GAAPを適用するアメリカの子会社を連結する場合には調整が必要となる場合が多い。財務諸表の整合性を保つためには、両基準間の違いを正確に理解し、適切な調整プロセスを構築することが不可欠である。
(本記事の情報は2024年11月時点で最新の基準に基づいているが今後の新たな基準改定や会社尺の変更が行われる可能性がある。最新情報を随時確認することを推奨する。)
FASB公式サイト:https://www.fasb.org/standards
IASB公式サイト:https://www.ifrs.org/issued-standards/list-of-standards/
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