Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年2月15日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
居住者テストと通年合算居住者選択
今年も米国タックス・シーズンが到来した。アメリカの個人確定申告において最初に行うべきはアメリカ居住者もしくは非居住者に該当されるかどうかのチェックである。入国初年度と出国最終年度においては、居住者と非居住者の両方の性質を併せ持つDual Statusという分類も存在する。この判別において個人確定申告の形態は大きく違ってくる。そこで本稿ではこれらを判別するための「居住者テスト」の基本概念および居住初年度に適用されることの多い「通年合算居住者」選択についてポイントを整理する。
1. 居住者テスト
日本人を含む外国国籍者が、米国において確定申告する場合、居住者(Resident)、非居住者(Non-Resident)もしくは両方の特性を持ち合わせた二重ステータス(Dual Status)のいずれかに分類される。米国税務上「居住者」と分類されるかどうかについては以下3つの居住者テストが用意されている。一つでも該当すれば「居住者」扱いとなる。
これら全て要件を満たした場合First-Year Choiceを選択できる。First-Year Choiceにて米国居住者を選択すると、当該年度において連続する31日以上米国滞在した<初日>からの居住者扱いとなる。
以上が「居住者テスト」である。アメリカの税務上、居住者と判別されたら、申告者は米国を含む全世界収入(Worldwide Income)を申告しなければならないこととなる。一方、居住者とならない、つまり非居住者扱いとなると、当該年度は米国源泉所得のみを申告する。このように考えると、居住者と判別された日本人駐在員としては、<全世界収入>を申告対象としなければならないため、米国のみならず日本収入をタックスリターンに含める、つまり合計税金負担も増えるのではないか、と考える向きもある。しかしながら居住者というアメリカの税金分類では、標準控除額Standard Deduction(2024: Single $14,600, Married Filing Jointly $29,200)など控除優遇措置や外国税控除など、たくさんのタックスメリットを利用できるような制度になっている。非居住者は、こうしたメリットは与えられていないのである。したがって、居住者と非居住の分類、どちらが得かというのは一概に言えないのだ。
2. 二重ステータス(Dual Status)
この他、米国入国年と出国年において、居住者と非居住者の両方の税務上ステータスが併存する二重ステータス(Dual Status)という分類が存在する。つまり入国年度において、アメリカ入国以前の年度期間は非居住者扱い、アメリカ入国日から年度終わりまでは、居住者扱い、となるのである。確定申告するフォーム自体も、Form 1040(居住者部分)及びFoirm 1040-NR(非居住者部分)と、両方を用いる。この二重ステータスにおいては、通常の居住者に与えられているような上述の税務上の優遇措置が、通年で与えられていない。つまり非居住者と同じでDual Statusは年度を通して優遇措置が与えられていないのである。
3. 通年合算居住者の選択
日本人駐在員が、実質滞在テストにより、入国初年度に居住者と判断された場合、基本的にはDual Statusと分類される。年の半ばにて、アメリカ入国したDual Status駐在員は、前述の通り、この年は税務上の優遇措置をフルに活用できない。実はこのデメリットを解消するための抜け道の制度もある。すなわち、入国年度において、居住円者と同じ優遇措置をフル活用できる「通年合算(ジョイント)居住者」への選択である。以下条件を全て満たした場合、申告者がDual Statusであっても、通年合算居住者として申告することが選択的に可能となる。(Section 6013(g)(h)Elections)
通年合算居住者として選択権を行使した場合、例えば10月1日からアメリカ滞在を開始したとしても、その年の1月から9月末までの間に米国外(日本)で生じた全世界所得も申告対象になってしまう。ただしその日本所得に対して支払った日本税金は、外国税額控除(Foreign Tax Credit)としてタックスリターン上、クレジットを取れる。一般的には米国の方が日本よりも税率は高いと言われているため、日本滞在期間(米国非居住者期間)の所得に対する税率はあがる可能性も十分ある。ただしStandard DeductionやChild Tax Credit等といったアメリカの優遇措置を受け取ることが可能となる。比較が複雑になってくる。よって申告者は、アメリカ入国年において、Dual Statusを取るのか、あるいは通年合算居住者を選択するのか、どちらの申告形態が有利になるかについて、それぞれの手続き上の時間とコストも含めて、思慮深く検証するべきであろう。(注:申告者のSpouseが米国Tax ID番号を持ち合わせてない場合、タックスリターン申告と同時にSpouseのTax ID番号取得も併せて申請しなければいけない)
4. 2024年タックスリターンに登場する新しい申告身分
2024年版Form 1040フォーム上、その1ページ目の最上位において、Filing Status(申告身分)を記入する欄がある。伝統的には、Single、Married filing jointly、Married filing separately、Head of household、Qualifying surviving spouseという5つの申告身分が存在してきた。しかし2024年版からは、If treating a nonresident alien or dual-status alien spouse as a U.S. resident for the entire tax yearという、6つ目の新しい区分が登場している。通年合算居住選択者への配慮なのか、それともチェック厳格化なのか、背景にある理由は分からないが、要注意の箇所である。
5. まとめ
日本人駐在員がアメリカ入国初年度において通年合算居住者を選択した場合、前述の正しいFiling Statusボックスにチェックを入れて欲しい。重要ポイントである。もしFiling Status区分ボックスのチェックを間違えると、あとで修正申告をする羽目になる可能性があるからだ。どちらの申告形態を取るにしても、コンプライアンス遵守する観点から、専門家と十分に相談の上、アメリカの確定申告を進めていただきたい。
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