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売上税とエコノミック・ネクサス

売上税とエコノミック・ネクサス

 

Eコマースの普及は、世の中のビジネスとライフスタイルを劇的に変えつつある。米国におけるEコマース市場は毎年拡大しており、2024年は1.2兆ドルの市場規模だったが、2029年までには1.9兆ドルまで膨らむと推計されている。商品取引に対する課税方法も、これに合わせて進化している。Eコマースの浸透により、従来の売上税の枠組み(物理的拠点Physical Presence判断)では対応できなくなり、2018年のWayfair判決を機に、エコノミック・ネクサス(Economic Nexus)という新しい概念に基づき、売上税は徴収されている。今回は、米国における売上税とエコノミック・ネクサスという切り口でその関係性について要点を述べる。

 

A. 売上税(Sales Tax)

正確には売上・使用税(Sales and Use Tax)と呼ばれている。特定の商品やサービスの売上に対して課税される米国の間接税である。日本の消費税に近い存在として知られているが、根本的に違う点が2つある。一つは日本の消費税は、商品の製造から消費までの各段階(製造者⇒卸業者⇒小売業者⇒消費者)で課税される制度である。これに対し、米国の売上・使用税は、消費段階のみ(小売業者⇒消費者)課税されるルールだ。もう一つは、日本の消費税は国(国税庁)が一括して管理運営している。これに対して米国の売上・使用税では、州ごとに独立して管理運営されている。したがって、売上税は、概念的には全米の各州でほぼ同じだが、細かいところでは、各州で違ってくる。一部州では、売上税が存在しないところもある(オレゴン州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、デラウェア州)。また使用税Use Taxとは、売上税を徴収されない他州で商品を購入しても、自州で消費(使用use)したのであれば、消費者は自らそれを「自己申告」して使用税(use tax)を州に納税させる制度である。つまり使用税は、売上税の徴収漏れがないように州がキャッチする仕掛けとして用いられている。

 

B. エコノミック・ネクサス (Economic Nexus)

エコノミック・ネクサスのもとでは、商品販売者が、物理的拠点Physical Presence(事務所、倉庫など)がなくても、Eコマースなどにより州境を超えて、一定の売上や取引件数が生じることで、その州への売上税ネクサス(申告義務)が生じる。起点となったのは、2018年の「South Dakota v. Wayfair, Inc.」裁判において、最高裁判所が「企業がその州に物理的な拠点がなくても、一定の売上や取引量があればセールズタックスの徴収義務がある」との判決を下したことである(Wayfair判決)。これを契機に、アメリカのほとんどの州ではエコノミック・ネクサスを導入したという背景がある。

 

<エコノミック・ネクサスの基準>

多くの州では、売上高又は(or)取引件数が、一定の基準以上だと、売上税の申告義務が生じるという要件が設けられてきた。例えば、過去12カ月の売上高が10万ドル又は(or)取引件数が200件以上だと、ネクサス(申告義務)が成立するという内容である。しかし最近では、売上高基準のみに基準シフト(つまり取引件数基準を削除)する州も増えている。NY州やCA州などのように基準値自体をレベルアップする州もある。

 

<基準例>

  • ハワイ州:売上高が年間10万ドル以上又は(or)年間取引件数200件以上でネクサス成立
  • ジョージア州:売上高が年間10万ドル以上又は(or)年間取引件数200件以上でネクサス成立
  • イリノイ州:売上高が年間10万ドル以上又は(or)年間取引件数200件以上でネクサス成立
  • カリフォルニア州:売上高が年間50万ドル以上でネクサス成立
  • ニューヨーク州:売上高が年間50万ドル及び(and)年間取引件数100件以上でネクサス成立
  • テキサス州:売上高が年間50万ドル以上でネクサス成立

 

エコノミックス・ネクサスが成立すると、その州での売上税の徴収・申告・納付義務が発生することになる。そうした場合、売上税を管轄する州当局のウェブサイトから、申告のための登録手続きを取らなければならないのだ。

 

C. 売上税とエコノミック・ネクサスの影響

Wayfair判決以降、AmazonやShopifyなどの大規模EC事業者(いわゆるマーケットプレイス業者)は、販売先州での売上税を徴収するしくみを代行業者として構築してきた。一方、小規模なEC事業者は、各州の売上基準を超えると、セールズタックスを自ら申告することが求められている。そのため独自にエコノミック・ネクサスを調べ判断する責任と負担がかかる。こうした小規模なEC事業者は、特にマルチ・ステートにまたがって米国事業を展開する場合、各州のエコノミック・ネクサス基準を確認し合い、対象期間、申告期限、それらのリスクを分析した上、適切に判断する必要が出てくる。

 

D. まとめ

米国では、州ごとに売上税の制度が異なる。Eコマース販売や州外からの販売でも「エコノミック・ネクサス」が成立すると課税義務が生じるリスクがある。各州の基準は異なり、売上高基準と取引数基準の両方を考慮する必要がある。適切な売上税申告のために、各州ルールを把握の上、必要に応じて専門家やソフトウェアを活用することが肝要である。

 

<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>

 

<参考>

Statista, Revenue of the e-commerce industry in the U.S. 2019-2029, Jan 2025

Sales Tax Institute, Economic Nexus State by State Chart, Oct 2024