永野・森田米国公認会計士事務所では、日米会計、経理、簿記、監査、税務、など日系企業の
米国進出ならびに米国での事業拡大に貢献してきた米国公認会計士事務所です。

JAPANESE / ENGLISH

採用情報 / お問合せ

トップページ > ニュース一覧

2015年米国個人税務アップデート 2016/02/04

会計税務情報 2016年2月号

永野森田会計士事務所



2015年米国個人税務アップデート~Form 8971(相続資産評価額報告)



アメリカではこの時期タックスシーズンの本番を迎える。今年の注目は、昨年末に施行されたPATH ACT("Protecting Americans From Tax Hikes Act of 2015")による大型税制改正であるが、日本人にとっては、これまであまり報道されなかった新しい報告義務、Form 8971(相続資産評価額報告)について注意が必要となろう。今月はこの新しいフォームについて解説する。


1. 2015年を振り返って


昨年は、国際税務に注目が集まった年であった。Pfizer社-Allergan社間の合併計画の発表に代表されるような米国企業による節税目的のCorporate Inversion (外国親会社の設立-本社海外移転)の試みが米国メディアに大きく取り上げられた。また、有名多国籍企業が主に西欧諸国の税務当局と個別に交わした移転価格の事前協議の内容がEUより違法であると判定されたこともニュースになった。一方、一般税制に目を向けると、年末に可決された大型税制法案(通称"PATH ACT")及び予算法案の下、それまでは時限措置であったR&D税額控除、資産償却に関する優遇税法等が恒久化されたり、Obamacareの歳入源である医療機器への課税、高額健康保険への課税(通称“Cadillac Tax”)が一時停止、先送りされたりした。このように、オバマ政権-議会共和党間にてこれまで大きな隔たりがあった分野において同意を見たことは、大きな驚きをもって迎えられており、Path Actについては、オバマ大統領の任期下における最後の主要税制法令になるとの見方が多い。また、同ACTを、1986年以来の内国歳入法大改正への布石になり得ると考える向きもある。

ところで、昨年7月のSurface Transportation Actにより法制化された相続資産評価額の報告義務(Form 8971)が、今月実質的な施行を迎えた。この制度は、海外居住者より資産を相続する者が対象となりやすい傾向があるため、日本人納税者も十分留意すべきルールである。


2. Form 8971-相続資産評価額報告義務の概論 


米国連邦税法において相続資産は、相続日(=死亡日)に故人より時価で購入したと扱われ、相続資産売却の際には、同時価を取得費とみなし譲渡益(損)を計算する(また、相続資産売却による譲渡益は、相続人による保有期間に関わらず、長期譲渡益と扱われる)。相続資産のこうした“取得費”は、”Stepped-up Basis”と呼ばれ、譲渡益を圧縮する働きがあることから、米国税務においては資産継承に関わる優遇措置と長らく目されてきた。通常、“Stepped-up Basis”は、被相続人の遺産税申告書にて報告された評価額に一致するはずであるが、両者間の乖離が容認されるケースもあった。Surface Transportation Actにおいては、2015年7月31日以降に提出される遺産税申告書(故人が遺産税法上の米国居住者であった場合にはForm 706が、非居住者であった場合にはForm 706-NAが用いられる)については、遺産管理人が、申告書の提出期日もしくは実際の提出日より30日以内に、Form 8971及び関連付表を用い、IRS及び相続人全員に対し、相続財産の評価額(遺産税申告書にて報告された評価額)につき報告することを義務付けた。但し、IRSによる書式の発行が遅れたため、2016年2月28日以前に提出期限を迎えるForm 8971については、期限が一様に同年2月29日に延長された。更に、IRSは2016年2月11日、提出期限を3月31日に再延長する旨発表した(注1)。Form 8971は電子申告が出来ないため、ハードコピーをIRSに提出する(提出先住所については、同フォームの記入説明書を参照)。また、Surface Transportation Actの下、”Stepped-up Basis”につき、従来の「連邦遺産税申告のために鑑定された評価額」と定義する条文(米国財務省規則1.1014-3(a))に新たに「(遺産税申告書の提出が必要なケースにおいては)申告書にて報告された評価額、もしくは(遺産税申告書の提出義務は無いが、Form 8971が提出されたケースにおいては)Form 8971での報告額を超えてはならない」(内国歳入法 1014(f)(1))という条件が加わった。現状では、Form 8971の提出義務は、遺産税申告書提出者に限られるが(内国歳入法6035(a)(1))、今後対象者を拡大しようとの意図もうかがえる。Form 8971が提出されない場合のペナルティ(Failure-to-file Penalty)、また相続資産を売却した年度の申告書にて不正確な“Stepped-up Basis”を報告したケースにおいて正確性関連加算税(Accuracy-related Penalty)を課すルールも今回施行された。


3. 日本人納税者への影響


上述の新ルールは、比較的多数の日本人納税者にも影響すると考えられる。米国遺産税法上の“米国居住者”の遺産は、総額が約500万ドルを超えない限り遺産税申告書の提出が必要無いため、Form 8971による報告義務も発生しない。しかしながら、日本居住者等の米国遺産税上の“米国非居住者”は、その遺産に6万ドルを超える米国資産が含まれれば、遺産税報告書の提出が必要となり、結果としてForm 8971も求められる。米国非居住者のケースにおいては、非課税枠が非常に低く設定されているため、比較的少額の対米投資(米国不動産、株式、パートナーシップへの投資等)であっても、米国遺産税申告書の提出が必要となる場合が目立つ。日米間には日米相続税条約が存在するため、日本居住者の遺産のうち日米両国にて課税対象となる資産を米国で申告する際、本来ならば米国居住者にしか適用されない500万ドルまでの非課税枠が一部利用出来る(注2)。仮に同恩典の下、対米納税額が発生しない場合であっても、申告は必要であるので注意が必要だ。日本居住者の米国遺産につき、副次的検認(Ancillary Probate)が米国内にて開かれる場合には、米国裁判所に登録したEstate代表者(Administrator)が遺産税申告書を提出する。そうでない場合は、相続人の代表者が遺産税申告書を提出する場合が多い。Form 8971は、遺産税申告書提出者に提出義務があるため、Estate代表者は注意が必要となる。過去においては、日本居住者の米国内遺産を売却した際、歳入通達 54-97の下、米国遺産税申告書にて報告された評価額を上回る“Stepped-up Basis”を用い譲渡益計算する例が見られたが、このLoopholeは、Form 8971の提出義務と同時に施行された内国歳入法1014(f)(1)により利用不可能となったと言える。しかし、米国在住日本人が日本居住者等の“米国非居住者”より相続した米国外資産については、Form 8971の提出義務は無く、当該相続資産を後日売却した際には、相続税申告時に外国税務当局に報告した評価額に関わらず、相続日の時価に基づく“Stepped-up Basis”を用い譲渡益計算が可能である。日本居住者より日本国内にある不動産を相続した場合、日本の相続税の算定規準となる評価額は時価よりも低く抑えられる傾向があるが、当該不動産を売却した年度の米国申告書上では、相続日の時価(不動産鑑定士に評価してもらったもの)を“Stepped-up Basis“とし譲渡益を計算することが出来る。

(注1)本稿執筆以後、提出期限は6月30日に再び延長された。

(注2)当該資産が、日本においては、相続人が日本居住者であるため課税対象であり、米国においては、米国国内法上“米国資産”と扱われるため課税対象となる場合にのみ適用。

****************

< TPP協定は日米貿易/投資にとって是か非か | Repair Regulations - 資産取得費用の資産化と損金算入 >