永野・森田米国公認会計士事務所では、日米会計、経理、簿記、監査、税務、など日系企業の
米国進出ならびに米国での事業拡大に貢献してきた米国公認会計士事務所です。

JAPANESE / ENGLISH

採用情報 / お問合せ

トップページ > ニュース一覧

米国会計基準のSimplification Initiative 2015/09/04

会計税務情報 2015年9月号
永野森田会計士事務所


米国会計基準のSimplification Initiative



2015年に入ってからFASB(米国会計基準委員会)は、矢継ぎ早に会計基準の簡素化を意図したASU(Accounting Standards Update-会計基準更新書)を発表している。その中には、多くの企業に影響を与える在庫の評価方法にかかわるもの等重要な変更も含まれる。今月号では、このFASBの会計基準簡素化構想(Simplification Initiative)について概観したい。


1. Simplification Initiativeとは

Simplification Initiativeとは、US GAAP(アメリカ会計基準)を検討し、会計情報の有用性を維持又は向上させつつ、その複雑性とコストを軽減できる分野を識別し、改善しようとする試みである。FASBは2014年5月頃から本格的にプロジェクトを立ち上げて検討を始めた。2015年になってからそれを受けた会計基準更新書がいくつも発表されている。また、まだ完了していないものの進行中の案件があり、今後順次内容が確定されていく見込みである。


2. 現時点で完了している主な項目

1) 在庫の低価法でのReplacement Costの利用中止(ASU 2015-11)
従来、US GAAPにおいて在庫に低価法(LCM-Lower of Cost or Market)を適用する場合、market価格は、調達市場側に着目して原則 Replacement Cost(再調達原価)であるとされてきた。そして、Replacement Costを調整するものとしてNRV(Net Realizable Value-正味実現可能価格)が上限(ceiling)及び下限(floor)の算出に使われてきた。今回の変更で、market価格は、原則として販売市場側に着目したNRVということになり、Replacement Costは利用が中止された。このmarket価格=NRVは国際財務報告基準及び日本基準も採用している考え方であり、convergenceが一歩進んだともいえる。
(適用は、2016年12月15日より後に開始する事業年度より。早期適用可)


2) Extraordinary Itemの廃止(ASU 2015-01)

US GAAPを学習したことがある方なら、損益計算書上のExtraordinary Itemとは、日本の特別損益とは同一の概念ではなく、1)Unusual in Nature 2)Infrequency of Occurrenceの両要件を満たした項目であるとの説明を読まれたことがあるだろう。今回の改正で、このExtraordinary Itemの概念は廃止された。変更後は、従来Extraordinary Item とされるようなものでも、Unusual in Nature OR Infrequency of Occurrenceの項目と同様に扱われ、損益計算書上Ordinary Incomeの一項目として表示されることになる。
(適用は、2015年12月15日より後に開始する事業年度より。早期適用可)


3) 社債発行費用の資産化の中止(ASU 2015-03)

社債(債務)発行費用(debt issuance costs)については今まで繰延資産(deferred charge)として資産計上した上で、利息費用として償却されていた。しかし、今回の変更では、社債発行費用には資産性はないと結論し、社債発行差金(debt discount又はpremium)と同様に債務の額から控除すべきであるとした。このため社債発行差金と同様の表示と会計処理がなされ、社債発行費用は貸借対照表上、負債の金額からの控除項目となり、利息費用として償却されるにつれて、貸借対照表上の債務の金額が額面金額に近似してくることになる。なお、日本の会計基準では、依然、社債発行費は繰延資産にできるとされているが、国際財務報告基準も債務発行費を債務の額からの控除項目として扱っており、今回のUS GAAPの変更の影響が注目される。
(適用は、2015年12月15日より後に開始する事業年度より。早期適用可)


4) Development Stage Entity(開業準備中の企業)の概念の廃止(ASU 2014-10)

この改正自体は、Simplification Initiativeの一環として行われたものではないが、Development Stage Entityの概念の廃止により、表示の面での簡素化が行われる結果となっている。すなわち、従来Development Stage Entityに関しては、Development Stage Entityであることを財務諸表上で明示するとともに、Balance SheetにおいてDevelopment Stage の間に累積した損失を示し、さらにIncome, Stockholder’s Equity, Cash Flowの各Statementにおいて、設立から現在までの累計情報も求められるなど特別な開示が求められていた。今回の変更により、開業準備中の状態については、Risks and Uncertaintiesの開示の一部であるNature of Operations / Activities としてfootnoteで触れられるにとどまることになる。
(適用は、2014年12月15日より後に開始する事業年度より。早期適用可)


5) 別途開示を必要とするDiscontinued Operationsの簡素化(ASU 2014-08)

従来、キャッシュフローを生み出す一つのまとまりであるcomponent of an entityが、処分されるとき、Continuing Operationsとは区別してDiscontinued Operationsに係る損益を開示していた。しかし、単にcomponent of an entityとしていたため企業体にとって重要でないようなcomponentの処分まで別途開示の対象となり、却って財務諸表の有用性を低下させているとの批判があった。このため、企業の活動内容と経営成績に大きな影響をもたらす企業戦略の変更といえるようなcomponentや事業の処分にのみ開示を限定した。なお、この改正自体は、前項目同様Simplification Initiativeの一環として行われたものではない。
(適用予定は、公開企業2014年12月15日より後に開始する事業年度より、非公開企業は1年後。早期適用可)

3. 現在検討がされている主な項目

1) 繰延税金資産・負債の短期・長期の区分の廃止

現在、繰延税金資産・負債は、それが発生する基礎となった資産・負債の長短の区分、若しくは、解消される時期の見込みによって短期・長期に分類されて貸借対照表上に表示されている。現在のところ、この区分を廃止して全て長期の資産・負債とすることが提案されている。FASBの議論では、「基礎となった資産・負債の長短の区分で繰延税金資産の長短を決定しても、解消時期の長期・短期とは連動しないため有用性が低い。」、「解消時期の見込みを元に長短の区分をするにしても困難なことが多く、簡素化の目的にそぐわない。」との意見が出されている。このため一律、長期項目として扱うという提案になったようである。
(草案上、適用予定は、公開企業2016年12月15日より後に開始する事業年度より、非公開企業は1年後)


2) 債務の短期・長期区分の簡素化

現在のUS GAAPでは、債務の長短の区分に関して、貸借対照表日以降に起こった事象を考慮する条項が存在している。例えば、期末日には短期の借入金であっても、その後、長期の借入金に借り換えた、又はそのような借り換え契約をした場合には、期末の短期借入金を長期借入金として扱う等である。これを国際財務報告基準に合わせる形で、1)契約上12ヶ月を超えて返済することになっている、又は2)契約上12ヶ月を超えて返済を繰り延べる権利を持っている場合は、長期に分類するとする議論が進んでいる。原則として期末日以降の事象を考慮せず、契約条項だけで長短を判断するすることになる。このため、財務covenant等に規定されている財務比率を満たすために今までより慎重な配慮が求められる可能性がある。
(草案が公表されていないため、適用予定日は不明)


3) 持分法(Equity Method)の会計処理の変更

会計を学ばれた方なら持分法は一行連結であり、基本的に連結決算と同じ作業をするという説明を聞かれたことがあるかもしれない。現行のUS GAAPもその考えを踏襲しており、持分法適用会社に投資をした際には、投資対象の会社の資産及び負債の公正価値を把握する。そして、その結果導き出される当該会社の純資産額のうち持分割合相当額を算出した上で、投資額(cost)との差を暖簾(goodwill)として把握することになっている。しかし、原則として50%超の持分を持つ連結子会社と異なり、20%から50%以下の持分を想定している持分法適用会社について、その資産、負債の公正価値を判断するのは、困難なことも多く煩雑である。このため、そのような公正価値評価作業を持分法においては求めず、暖簾部分の把握もしないという議論になっている。
(草案は公表されているが、適用予定日は後日提案となっている)


4. まとめ

Simplification Initiativeには、上述したように、在庫の低価法における市場価格の変更、繰延税金資産の貸借対照表における区分の変更、さらに債務の長短期の区分方法の変更など影響が大きい項目が含まれている。他にも、年金、企業結合関係の項目等も検討されており多岐にわたっているが、全体的な流れを見ると国際財務報告基準との整合性をより高めるとともに、細則主義から原則主義に向かっているように見える。裏返せば、最近のSEC(米国証券取引委員会)幹部の発言にも見られるように、当面アメリカは、国際財務報告基準の採用(adoption)は行わず、convergenceを行っていくことを決断したと思わせる動きである。

< 利益率の低い米国子会社の移転価格文書化について | パートナーシップの会計と税務の基礎 >