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利益率の低い米国子会社の移転価格文書化について 2015/08/04

会計税務情報 2015年8月号

永野森田会計士事務所

 

利益率の低い米国子会社の移転価格文書化について

 

移転価格を文書化することは、税務調査にて、移転価格に基づく更正を受けた際に課されかねない過少申告加算税等を回避するための重要な対策となる。利益率の著しく低い米国子会社のスタディを行う際には、先ずなぜ利益率がそれ程までに低いのかを検証する必要がある。今月の会計税務情報では、当事務所の経験に基づき、利益率の低い米国子会社の移転価格を文書化する場合に、如何なる市場分析、機能分析ができうるかについて紹介する。

 

当事務所での今までの経験においても、親子間の価格設定方針が、2者間のリスク負担状況にそぐわなかった場合や、米国子会社の財務諸表の表記方法が、当該会社の業務内容を適切に反映していなかった場合等を見てきた。また、適切と思われる移転価格設定がされていたとしても、親子を取り巻く外的要因により、米国子会社の利益率が上下することも考えられる。このような外的要因を勘案したものとしては、米国財務省規則1.482-1(f)(2)(iii)条の下、景気の波を配慮し、比較対象スタディにつき複年の会計データ使用を認めたルールが挙げられる。さらに、今日作成される殆ど全ての移転価格ドキュメントに見受けられる「市場分析(Industry Analysis)」も、経済環境が移転価格に及ぼす影響につき、直接、又は間接的に論じている。この市場分析は、親子間の関連者間取引を取り巻く外的要因につき分析する一方、移転価格ドキュメントの礎とも言える「機能分析(Functional Analysis)」は、関連者間取引に関する親子間のアレンジメントの詳細を分析する。機能分析も、著しく低い利益率が何に起因するかの検証のツールとなる。

 

なお、移転価格に関しては過去に以下のようなNewsletterも発行しているので参照されたい。

文書化に関する基礎的な解説(2009年11月号)

http://www.nagano-morita.com/news.php?itemid=114

CPM法(Comparative Profit Method-利益比準法)の解説(2012年4月号)

http://www.nagano-morita.com/news.php?itemid=337

比較対象会社の選定に関する解説(2013年3月号)

http://www.nagano-morita.com/news.php?itemid=358&catid=20

 

 

1. 移転価格の文書化 - 提出を求められる書類の内容

日米間の関連者間取引に関わる移転価格の文書化を行う際には、ほぼ決まって、①グループの米国事業の概論、②市場分析、③機能分析、④経済分析、を骨子とするドキュメントを整えることになる。税務調査の際、移転価格が調査対象となった場合には、米国財務省規則1.6662-6(d)(2)(iii)(B)条が定める情報を記載したドキュメントを所定の期間内に提出することが求められるが、上記4つの概括、分析を通じ、要求された情報を的確に記述するのが、文書化担当者の任務である。下記テーブルは、米国財務省規則1.6662-6(d)(2)(iii)(B)条にて求められる情報の種類、及び文書化の際それら情報が通常どのセクションで詳述されるかにつき示している。

 

 

 

事業概論、市場分析及び機能分析は、関連者間取引における事実関係の整理、分析を目的としている。一方、経済分析においては、左記3セクションでの分析結果をベースに、関連者間取引における価格設定(=移転価格)の妥当性を検討する。

 

2. 市場分析が説く低利益率の要因 

米国移転価格税制においては、外国資本による米国販社は黒字運営されるべきという考え方が強い。これは、グループの収益性、競争力に寄与する無形資産(特許権、商標権等)を持たない販売会社の場合、そのような資産がもたらすハイ・リターンは得られない代わり、自らが果たすルーティーン機能(=販社機能)に対する見返りを営業利益のレベルにおいて保証されるべきであるとする理論による。このため、米国の移転価格において最も頻繁に用いられるCPM法(Comparative Profit Method-利益比準法)においては、会社の利益率が、比較対象会社の利益率に及ばない場合、それは専ら移転価格に起因すると判断されがちである。しかしながら、現実には、諸々の要因のため、低利益率にあえぐ米国販社も多い。この場合、関連者間取引を取り巻く外因により、米国子会社の収益性が影響を受けていることが認められるならば、文書化の際、市場分析の項にて、外的要因と収益性の因果関係について考察すべきである。例えば、親子間の価格設定方針につき従来より変更が見られない中で、景気や市場環境の悪化、また米国市場におけるグループの競争力低下に伴うマーケットシェア減少等により米国子会社の収益性が悪化した場合がある。このような場合には、移転価格文書のアップデート時において、グループの米国市場におけるマーケット・ポジション(=市場における立ち位置)の変化につき的確に言及、分析した上で、従来より選択してきた比較対象会社についても、米国子会社の経済状況を勘案して見直すべきである。移転価格の実務においては、営業利益が赤字の会社を比較対象会社として選択することにつき躊躇う向きもあるが、メーカー、サプライヤー等が得意先に利益保証など通常しないことに鑑みれば、寧ろ独立企業間の原則に則った措置と考えられる。

 

3. 低利益率の会社の機能分析

機能分析も市場分析同様、比較対象会社の選択に大きく影響する。機能分析においては、グループの米国事業につきグループ各社が担っている役割、分担しているリスク、並びに保有する資産を比較検討し、それらのいずれがグループの競争力や収益性の向上に貢献しているか検討する。文書化の際、機能分析の項においては、グループ各社の貢献度を端的に比較できるデータ(多くの場合、表やテーブルを用いるが、各社の貢献度の評価を文書化するのが望ましい)を挿れる。米国子会社の機能分析しか行わない例も見かけるが、グループの米国事業に関わる各社につき分析が求められる。米国子会社による貢献が、ルーティーン業務(例:グループの米国市場向けディストリビューターとしての機能)に限られると判断される場合、マーケティングに関する無形資産を有しないディストリビューターの中から比較対象会社を抽出する。無形資産を有しないディストリビューターの利益率は、無形資産を有する者よりも低いのが一般的である。

 

4. まとめ

市場分析も、機能分析も、比較対象会社を選択するに当たっての方針決定に重要な影響を及ぼす。市場分析が、関連者間取引を取り巻く外的要因に着目するのに対し、機能分析は、関連者間取引に関するグループ各社の貢献度を、役割の分担、リスクの負担、無形資産の有無の観点から比較する。米国移転価格税制においては、上述したように外国資本による米国販社には営業利益が保証されるべきという考え方が強い。しかし、低利益率の場合であっても、市場分析、機能分析にて事実関係を的確に記述、報告するとともに、それら事実関係に見合った合理的なタックス・ポジションを首尾一貫して取ることで、移転価格コンプライアンスへの誠意を示すことはできる。

 

【執筆者連絡先】Los Angeles Office河村(213-347-1129)

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