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メキシコ進出:5つの留意点 2015/05/04

会計税務情報2015年5月号

永野森田会計士事務所

 

メキシコ進出:5つの留意点

 

トヨタ自動車は去る4月、メキシコ中央部のグアナファト州に組立工場を建設すると発表した。同社のメキシコ新工場は、2019年から主力車「カローラ」の北米生産能力を20万台増やすというものである。メキシコへの自動車工場進出は、日産自動車が先行しており、昨年にはホンダやマツダも相次いで新工場を立ち上げている。裾野の広い自動車産業だけに、現地における経済的な波及効果も大きく、その関連企業はメキシコ進出を加速している。一方、メキシコ進出は同じ北米のアメリカ進出と比べ、税制会計労務面などで違う点が目立つ。今月は、こうしたメキシコ進出にあたり留意すべき事項についてとりまとめた。なお、メキシコ進出の法人形態については2014年7月号をご参考にしていただきたい。

 

1. アメリカ法人に損金をパススルーする節税対策

 

メキシコ法人から出る赤字を、関連するアメリカ法人の節税対策として利用する方法である。メキシコの多くの日系自動車メーカーは、この方法を採用している。具体的には、アメリカ現地法人の100%所有のメキシコ合同会社(S.de R.L.)として設立し、そのメキシコ法人における赤字(損金)をアメリカ親会社に税制面でパススルー(構成員に課税)する。ここで注意すべき点としては、アメリカ側でのIRS(米国内国歳入庁)の手続きである。まずはメキシコ合同会社をアメリカ側税法におけるパートナーシップとして申請し、その許可証をIRSより得る必要がある。その後は毎年、メキシコ法人をアメリカ税制面における外国パートナーシップとして申告しなければいけない。この大事な手続きを経ないことには、アメリカ側での税制面でのメリット(損金パススルー)を享受することはできない。ステップをまとめると以下の通りである。

 

1)メキシコ合同会社をアメリカのパートナーシップとして選択(最初だけ)

Form 8832 Entity Classification Electionを申請、IRSから許可証(Approval)を得る。

 

2)メキシコ合同会社をアメリカのパートナーシップとして申告(毎年)

Form 8865 Return of US persons with respect to certain foreign partnershipsを毎年申告する。US GAAP基準でかつ通貨USドルをベースに直し申告する必要がある。

 

2.労働者プロフィット・シェアリング制度(PTU)

 

メキシコ法人の利益を労働者に還元するという制度である。古くは1917年メキシコ国憲法に制定されており、社会主義的なカラーが色濃く出ている。現行のメキシコ労働法制によれば、利益に乗ずるパーセンテージは1985年より10%である。その計算方法も独特であったが、最高裁の判断を考慮した結果、2014年の計算方法が現在は適用されている(税法により計算される課税所得から、繰越欠損金を排除などの調整により、PTUは計算される)。

 

これだけ見ても特殊な制度だが、より複雑となるのは従業員との関わりである。従業員から見るとPTU分配金は、実質的には初夏(毎年5月に支給)に支払われるボーナスと考えられている。他方、PTU計算では様々の要因が入ってくることから、ある年によってはPTU分配金は「ゼロ」と計算されることもある。このような背景から、会社としてはPTU分配金を支払う義務がなくとも、支給がないことに不満な一部従業員に対して「貸付金」のような形で、現実的に問題を解消するケースもあると言われている。

 

3.メキシコ社会保険庁(IMSS)への登録、報告管理

 

メキシコ労働者のための社会保険制度としては、日本と似たような形で国の運営する国民保険(IMSS保険)が普及している。ただし違うのは、社会保険料をベースとして運営されるIMSS保険に加盟すれば、その専属病院における診断と治療は、原則的に無料となることだ。一方、その保険料のほぼすべてを負担するメキシコ法人にとっては、この管理は煩雑な面が加わる。具体的には従業員一人ひとりをメキシコ社会保険庁(IMSS)に登録、賃金台帳を作成するにあたり、社会保険料の計算根拠となる様々な「手当て」を調整項目として検討する必要がある。例えば、会社内で支給される「食事」の一部は、IMSS上、従業員に対する現物支給として調整される必要がある。離職率の高い会社においては、社会保険への従業員の登録取り消しの「通知」を適宜行わなければ、無駄な保険料を負担してしまうのである。さらに会社側は、住宅基金(Infonavit)の住宅融資を受けた従業員のローン返済額を給与から源泉徴収し納付する責任を負わされている。会社は、IMSSの支払いと一緒にローン返済の管理義務も負わされている。逆にこれを怠った場合、会社はその連帯責任を負わされる。こうした状況から会社側は、IMSS担当専属スタッフを置いているのである。

 

4.労働者を保護する労働制度

 

メキシコ労働法を考察すると、社会的弱者である「従業員」を保護する傾向が色濃く見られる。例えば、従業員に対するクリスマス・ボーナスは、法律で決められている。毎年12月20日までに最低15日分の給与を支払わなければならないのである。またバケーション(有給休暇)の付与日数も、勤続年数に応じて法律で決められている。育児休暇も女性はもとより、2012年より男性の、育児休暇も定められている。すべての従業員に対するトレーニングプログラムも会社として提供しなければならず、プログラムの内容は予め労働局の承認と登録が必要である。

 

5.メキシコ版183日ルールの適用

 

頻繁に出張するビジネスマンは、その国に183日以上滞在すると、居住者としてその期の全世界所得が課税される税法制度である。アメリカの183日ルールとはぼ考え方は同じである。ただしメキシコ版183日ルールは、その計算方法がアメリカ版と若干違う。メキシコ版の数え方では、年間どの時点においても直近12ヶ月期間で滞在日数が計183日を達成してしまうと居住者となってしまい、遡及的にその滞在のスタート地点から、メキシコ居住者扱いとなってしまうのだ。つまり、例えば年度前半において183日マークを達成してしまうと、その前年度から越年してメキシコ居住者扱いになってしまうのである。

 

一方、アメリカ版では、183日ルール(Substantial Presence Test)を満たした場合に、その年度から居住者扱いとなる。メキシコのように遡及的に前年から居住者扱いとはならない。具体的には、今年度は最低31日滞在し、かつ今年と過去2年間で合計日数(今年はフル日数、昨年は1/ 3日数、一昨年は1/6日数でカウント)による日数計算で183日以上をマークしたら、今年度最初の米国滞在日から、アメリカ居住者扱いとなる。


このような点を考慮しても、メキシコの日本人駐在員は、毎年4月末までにメキシコにて「確定申告」をする義務がある。日本本社の「コンプライアンス」と照らし合わせ、熟考を要するテーマでもある。

 

<まとめ>

 

以上、メキシコには歴史的風土の影響による独特の制度がある。隣国のアメリカとは違う点が多くあるが、違いを十分に理解した上でメキシコに進出するならば北米全体を戦略地域として経営プランを立てることができる。

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