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新しい収益認識基準の公表(応用編) 2014/10/04

会計税務情報2014年10月号
永野森田会計士事務所

新しい収益認識基準の公表(応用編)

収益認識基準は、企業の売上額の決定に関わる最も重要な会計基準のひとつである。しかし、先月号でも触れたとおり、米国会計では、収益の認識に関しては、産業別に複数の基準が並存してきたため、分かり辛いという指摘を受けてきた。今回のFASBとIASBの共同作業により策定された新しい収益基準(Revenue from Contracts with Customers)は、こうした問題を解決し、収益認識基準を単一化及び明確化することを目的としている。先月号では、概念的な説明をしたが、今月号では、新基準の5つのステップのうち(1)顧客との契約の識別、(2)履行義務の識別の基準について、具体例を用いて説明したい。

A. 新基準における5つのステップ

先月号でも述べたとおり、新基準での収益の認識は、以下の5つのステップを用いる。

1) 顧客との契約を識別する
2) 契約における履行義務を識別する
3) 取引価格を算定する
4) 当該取引価格を履行義務に配分する
5) 企業がそれぞれの履行義務を充足した時に (又は充足するにつれ)収益を認識する

ステップ1―顧客との契約を識別する

本基準でいう「顧客との契約」があると認識されるためには、次の要件がすべて満たされる必要がある。

a)企業と顧客の当事者同士が書面、口頭、または慣習的な取り決め方法に従って契約を承認し、各々の義務を果たす意思を確約している。
b)企業が物品またはサービスに関する各当事者の権利を識別することができる。
c)企業は提供する物品又はサービスの対価の支払い条件を確定することができる。
d)契約に経済的実質が(commercial substance)伴っている。
e)対価の回収見込みが高い(probable)。

また、以上の基準がすべて満たされているわけではないが、顧客からいくらかの対価(consideration)を受け取っている場合、次の条件のいずれかを満たしていれば、受け取っている対価を収益として認識してもよい。どちらも満たしていない場合は、受け取っている対価は負債として認識する。

f)企業は物品又はサービスの提供義務をすべて果たしており、さらに、返還義務がない形で対価の全額かほぼ   全額を企業は顧客から受け取っている。
g)契約は打ち切られており、顧客から受け入れた対価の返済義務はない。

契約当初はa)からe)までの条件を満たしていても、状況が変化すれば、見直す必要がある。

先月号でも触れたとおり、このステップ1の段階で留意すべきことは、今までの「基準」で別項目であった回収可能性が、契約の存在の有無という形で組み込まれていることである。すなわち、回収可能性が probableでない場合は、本基準でいう契約は存在せず、収益は認識できないことになる。新基準では具体的には以下のような例を想定している。

<事例1:不動産売買>

不動産開発業のA社は、$1,000,000 で顧客にビルを売る契約をした。この顧客はレストラン業の経験はないがレストランを開く目的でビルを購入した。レストラン業にとっては競争が激しい地区である。まず頭金$50,000を支払い、残高は長期の分割払いにした。このビルの原価は$600,000である。顧客は他に収入源、資産を持っておらず、返済はレストランからの収入のみに頼らなければならないということがA社の調査でわかった。A社は全額回収の見込みが低いと判断した。
判断:上記のe) の基準を満たさないので、本基準上識別すべき契約は存在せず、A社は$1,000,000 を収益として計上することはできない。上記のf)を満たしていないので、頭金の$50,000も収益として計上せず、負債として認識し、分割払いの支払いを受け取ったときも負債として認識する。ビルもA社の資産のままである。企業は条件a) からe)すべて、またはf)とg)のどちらかが満たされるまでは収益・売掛金は認識することはできない。企業は回収見込みを見直し続けることになり、回収見込みが高いと判断できる日がくるまで収益は計上できない。

<事例2:ロイヤルティー収入>

B社は顧客にパテントを許可し、使用度にあわせて(usage-based)ロイヤルテイー料を受け取っている。契約当初は上記のa)からe)まですべて条件をみたしていた。一年目はロイヤルテイー料が支払期限までに支払われていたが、二年目のロイヤルテイー料はほとんど払われないままであったので、未払分は売掛金の会計基準に準拠するよう処理をしている。三年目にはいっても顧客はパテント使用を続けているが、B社の調査で、顧客が財政困難に陥っており、料金の回収見込みは低いということが判明した。
判断:上記のe) の条件を満たさなくなってしまったので、B社はその時点からの顧客のパテント使用に対して収益を計上することはできない。それ以前に認識された売掛金は売掛金の会計基準にしたがって貸倒引当金を立てる等の処理をする。

ステップ2―履行義務を識別する

複数成果物を伴う契約には履行義務を識別することが必要である。顧客との契約は物品やサービスを個別に分けて結ばれることが多いが、物品に別の物品やサービスが含まれているという暗黙の了解のもと、契約には明記されていないこともあり、履行義務が単一なのか複数なのかを判断するのが難しい場合もある。新基準では、distinctをキーワードに判断基準を示している

新基準によれば、次の両方を満たせば、履行義務はdistinctであり、別のもとして扱う必要がある。

(a)区別可能性(Capable of being distinct)-顧客はその物品またはサービス単独で、または、顧客がすぐに利用可能な他のリソースと組み合わせて、便益を享受することができる。(実質的な区分可能性)
(b) 契約書上の区別(Distinct within the context of the contract)-物品またはサービスを移転する約束は、契約書上、他の約束と識別することが可能である。(契約書上の区分可能性)

そしてdistinctな履行義務は、区別して全体の売値をそれぞれに割り振り、それぞれの履行義務が果たされたときに個別に収益を認識する。
これもどのようなことを想定しているのか、例を挙げてみたい。

<事例3:保証付商品売買>

製造業であるC社は商品を販売する際、(1)20時間のトレーニング、(2)一年間の製品保証(製品本来の機能の保証、manufacturer’s warranty)、を約束し、(3)二年間の製品保証をつけてセットで販売している。
判断:(1)は別個の履行義務として認識できる。顧客はトレーニングを受けなくても購入した商品からの便益を享受することができ[(a)を満たす]、C社はトレーニングを契約上識別可能である[(b)を満たす]。(2)は別個の義務として認識されない。製品本来の機能に欠陥があった場合の保証で必然的に付いてくる保証であり、別途料金で切り離して契約書に入れることができない[(b)を満たさない]。(3)は別個の覆行義務である。製品の本来の機能が働いているという前提の下、顧客は追加で将来の保証サービスの便益を受けられ[(a)を満たす]、契約上も別個の義務として値段をつけられる[(b)を満たす]。結果として、C社は売値を3つの履行義務である商品・20時間のトレーニング・2年間の製品保証オプションに振り分け、それぞれの義務が果たされたときにそれぞれの収益を認識する。

<事例4:商品販売>

D社は顧客に商品を$100で販売する契約を結んだ。Shipping term はFOB shipping pointだが、輸送間の破損・紛失はD社が責任を持つ契約になっている。
判断:現行の会計基準ではFOB shipping pointとFOB destination の二つの基準を区別している。TermがFOB shipping pointの場合は商品をD社から発送(出庫)した時点で 商品の紛失リスクは顧客に移り、D社は収益計上できる。FOB destination の場合は、商品が顧客に到着した時点でリスクが顧客に移り、到着時に収益の計上ができる。しかし、このD社の例では、term はFOB shipping pointであってもdestination まではD社が責任を負うという契約だから実質的にはFOB destination である。現行の基準ではこういった取引はFOB destination とみなされ、商品が顧客に到着するまで$100の収益を計上することはできない。新基準下では、D社がdestination まで責任を取るという約束が商品とは別個の履行義務であるかどうかを判断することになる。(a)と(b)の条件を満たし、別個の履行義務であると判断でき、$90が商品の対価で、輸送中のリスクを負うという義務が$10 であると按分できたとする。その場合、D社は商品発送時に$90 の収益を認識し、商品が顧客に到着した時点で$10 の収益を認識することになる。

<事例5:ソフトウェア開発>

ソフト開発をしているE社は顧客と(1)ソフト使用ライセンス、(2)インストレーションサービス、(3)ソフトのアップデート、(4)2年間のテクニカルサポートを別売りで提供する契約をした。
判断:この場合、B社は別売りで契約を結んでいるので(1)(2)(3)(4)ともに条件(b)を満たしている。ソフトが先に顧客先に着き、(2)(3)(4)が行われていない状態でもソフト自体は機能するので、顧客はソフトからの便益を享受することができると判断され条件(a)を満たす。また、(2)(3)(4)はお互いに作用することなく、ソフトの機能を大幅に変更することもなく別個に便益をうけられるので、条件(a)を満たしている。結果として、(1)(2)(3)(4)の義務が各々履行されたときにそれぞれの収益を認識する。

残りの3つのステップ-取引価格を算定する(ステップ3)、 当該取引価格を履行義務に配分する(ステップ4)、履行義務を充足した時に (又は充足するにつれ)収益を認識(ステップ5)-に関しても具体例を眺めてみるとどのようなことが論点になっているのか理解しやすくなると思われる。次回以降、またほかのステップ、及び付随する論点について触れてみたい。

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