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FATCA税制とW-8BEN様式変更について 2014/08/04

会計税務情報 2014年8月号

永野森田会計士事務所

 

FATCA税制とW-8BEN様式変更について

 

米国タックスの専門家の間では、FATCAの話題で持ちきりだ。FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)とは、「外国口座税務コンプライアンス法」のことである。米国人による米国外口座における租税回避を防ぐ目的から、連邦議会はこれを2010年に立法化、これまで段階的に施行してきた。その骨子は、米国外の金融機関および米国源泉所得に対して、米国政府が報告義務を課すという、アグレッシブな内容である。こうした流れの一環として、今年7月1日、法人提出用のW-8BENは新しいフォームに一新されたのである。今月号では、このW-8BEN(「米国源泉徴収および報告に関する最終受益者の外国人証明書」)の変更内容、及びFATCA源泉徴収ルールのコンプライアンスのキー・ポイントにつき以下考察していきたい。

 

1. FATCAと米国外金融資産

 

FATCA(発音:ファトカ)は、米国外で脱税を目的とした米国人の隠し口座を、あぶり出そうという目的から導入されたと言われている。具体的には、米国の「域外」にあり本来ならば米国政府の支配の及ばない米国外金融機関に対して、当該金融機関が支払いを受ける米国源泉の所得(利息、配当、使用料など)に対する30%の源泉徴収を「免除」することと引換えに、米国納税者の米国外金融資産に関する情報をすべて米国IRSに提供させる環境を作り出そうとした。日本政府は、これに応じて日本の金融機関(銀行、証券会社等)をFATCAの規則に準拠するよう指導してきた。

 

なお、よくFBAR(Foreign Bank Account Reporting)Form 8938(Foreign Financial Assets Reporting)とは同じ趣旨のような印象を与えて混同されがちである。しかし、これらはFATCAとは全く異なる根拠法から成り立っている。つまりFATCAとFBARとは、完全に切り離して理解する必要がある。

 

2. FATCAとW-8BEN

 

以上のようにFATCAは、ともすると金融機関のみに該当するものと解釈されがちであった。しかし、一般企業にも影響を与えている。すなわち、FATCAでは、如何にして米国外に支払われる、米国源泉所得に関するすべての受取人企業の情報を、正確に把握するかを重視している。

 

従来のW-8BEN(Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding)は、そのためのフォームだった。その主たる目的は、①当該所得は米国国内法の定める非居住者源泉徴収ルール(内国歳入法第1441、1442条)の対象であることの確認、②当該所得に対し適用される租税条約上の恩典の有無及び源泉税率の確認、にあった。従来のやり方としては、米国外の受取人は個人であっても法人であっても、同じフォームW-8BENの提出を必要としてきた。

 

この点については、米国進出の日系企業では度々、目を通してきたことになる。日本の親会社等に対し発生する利息、配当、使用料、ギャランティー・フィー等支払につき、その都度、支払先の親会社等よりW-8BENを入手、保管する事が義務付けられてきたからである(但し、ギャランティー・フィーについては、2010年9月28日以降に交わされた契約に基づくもののみ対象)。そのため、W-8BENは日本企業の経理担当者にとっても、馴染みのあるフォームと言える。

 

3. 新しいフォームの趣旨

 

今回の変更により、法人向けW-8BENは、W-8BEN-Eへと生まれ変わった。全8ページにも及ぶ報告書類である。従来のW-8BENにおける非居住者源泉徴収ルールに加え、新たにFATCA源泉徴収ルール・コンプライアンスのために必要な情報提供が求められるようになった。ここ数年間にわたりFATCAコンプライアンスのための準備を重ねてきた日本の金融機関とは異なり、金融機関以外の多くの法人にとっては、今回のW-8BEN-Eへの対応が、FATCA税制の本格的導入に絡む初の経験となろう。

 

W-8BEN-Eにて求められる報告内容は、金融機関と、それ以外の法人で異なる。金融機関以外の場合、①提出者が、FATCA源泉徴収ルール対象外の法人である旨の報告、②(①にて対象外法人で無い場合)同社株式の10%超を直接、間接に所有する(税務上の)米国人が存在しない旨の報告、③(②にて該当する米国人が存在する場合)そのような米国人の名前、住所、納税者番号の開示、を行うこととする。

 

①にて、FATCA源泉徴収ルール対象外とされる法人には、日本の証券取引所に上場している法人及びその子会社、受動的収入(Passive Income)の割合が全収入の半分以下で、且つ受動的収入を発生させる資産が全資産の半分以下の会社等が含まれる。これらに該当しない場合(つまり、FATCA源泉徴収ルールの対象法人であっても)、②の報告ないし③の開示をすることで、FATCA源泉徴収が回避出来る。逆に①に該当する場合でも、米国支払者からの催促に関わらず、W-8BEN-Eを提出しない場合には、FATCA源泉徴収ルールに則り、30%のFATCA源泉徴収がなされる場合が有り得る。

 

FATCA源泉徴収ルールは、租税条約よりも優先され適用されるため、米国支払者よりW-8BEN-Eの提出依頼受けた場合には、速やかに応じるのが賢明である。

 

4. FATCA源泉徴収の対象となる米国源泉所得

 

FATCA源泉徴収の対象となる米国源泉所得の範囲は、従来のW-8BENにおける非居住者源泉徴収のそれより広いため、注意が必要である。例えば、非居住者源泉徴収の対象となるFDAP所得(Fixed, Determinable, Annual, Periodical Income)の概念には、譲渡益は含まれないが、財務省規則(1.1473-1(a)(1))は、2017年1月1日以降において、FDAP所得を発生させる米国資産の売却額は、FATCA源泉徴収の対象である旨明記している。従って、FIRPTA税制(Foreign Investment in Real Property Tax Act)対象外の国内法人株式の売却、償還といった行為についても、FATCA税制の下、源泉徴収の対象になりかねないのである。更に、財務省規則(1.1.1473-1(a)(4)(ii))は、租税条約の恩典の結果免税と扱われるECI所得(Effectively Connected Income)についても、FATCA源泉徴収の対象に成りうる旨うたっている。邦銀の米国支店への支払利息は、これまで、ECI所得と自動的に見なされ、W-8BEN上にては扱われないのが常であったが、上述の財務省規則を受けて、今後はこのような支払利息についてもW-8BEN-Eの提出が必要と目されるようになるか興味深い。

 

5. W-8BEN-E記入上のポイント

 

W-8BEN-Eは、様々な類の金融機関、及びそれ以外の法人に対応すべく作られたため、全8ページに計30の設問が並ぶ包括的な書式である。しかし、各々の記入者は回答すべき設問の数、回答に要する時間とも限定的である。重要なポイントとしては、W-8BEN-Eの第1ページ、PartIの第5項にて、正しい法人タイプを選択する事(同項においては、31の法人タイプが羅列されており、回答者はその中より、正しい法人タイプを選択する)、及び選択した法人タイプに関わる設問に漏れなく回答することである

 

6. 旧W-8BENの使用について

 

2016年12月31日までに支払われるFATCA源泉徴収対象の米国源泉所得については、旧W-8BENを継続して用いることができる。但し、旧W-8BENが2014年12月31日以前に提出された場合で、更に、提出者がFATCA源泉徴収ルール対象外法人である場合は、その事実を証明する証拠、また提出者がFATCA源泉徴収ルール対象法人である場合には、10%超米国株主の存在の有無についての証明書や(必要ならば)同株主の情報の開示が添付されている場合に限られる。

 

7. その他の留意点

 

W-8BEN-Eと共に、Form 1042においても2015年提出分より、FATCA源泉徴収の対象となる米国源泉所得が報告されることとなった。また、米国人株主につき情報を開示したW-8BEN-Eを受け取った米国支払者は、FATCA源泉徴収の対象となる米国源泉所得が支払われた翌年の3月31日までに、Form 8966をIRSまで提出する必要がある。

 

【参考】

旧Form W-8BEN http://www.irs.gov/pub/irs-prior/fw8ben--2014.pdf

新 Form W-8BEN-E http://www.irs.gov/pub/irs-prior/fw8bene--2014.pdf

 

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